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  • Writer's pictureBundo Takagi

バイデン政権の下でアメリカはどう変わるのか?

変わるものと引き継ぐもの

1月20日にようやくバイデン大統領が就任した。就任したその日に、トランプ政権から政策転換する15本もの大統領令に署名した。バイデン政権になると、アメリカはトランプ政権とどう変わるのだろうか。就任後1週間の行動を見ると、トランプ政権の全てを否定するものではないことが分かる。


トランプ政権から変わるもの

まず、トランプ政権がどんな政権だったのか、整理しておこう。トランプ政権の特徴を3つ挙げると、①アメリカ第一主義、②白人至上主義、③パリ協定からの離脱である。


これがバイデン政権の下では、①国際協調主義、②ダイバーシティの促進、③パリ協定への復帰と変わる。


アメリカ第一主義から国際協調主義へ


アメリカ第一主義は、アメリカが世界の警察官であることを辞めると宣言したもので、自国の利益を犠牲にしてでも自由主義陣営のために闘ってきたこれまでの姿勢をあらためて、これからは自国の利益を最優先に考えるというもので、具体的には、アフガニスタンからの撤退や日本やドイツに対する防衛負担の増額要求という形で現れた。


同盟国のヨーロッパや日本にまで関税をかけたものだから、同盟国が疑心暗鬼に陥った。正直なところ、仮に中国軍が尖閣列島に上陸した場合、アメリカは日米安保条約に基づいて、本当に駆けつけてくれるのだろうかと不安になった。


結局、これが中国につけ入る隙を与えた。同盟関係が強固ならば一致団結して中国に当たるはずなのに、バイデン政権が誕生する直前にEUは中国とFTAを結んだ。また、韓国の対日関係が険悪なのも、米日韓の同盟関係が揺らいでいるからに他ならない。


バイデン政権は同盟関係の悪化を招いたアメリカ第一主義から国際協調主義に舵を戻す。当選を確実にしたバイデン大統領はスピーチで「アメリカ・イズ・バック」と叫んだ。初日に署名した大統領令の中には、WHOからの脱退手続きの停止やパリ協定の復帰が含まれている。


また、同盟関係の立て直しにも動くはずだ。すでに、菅総理はバイデン大統領との最初の電話会談で、尖閣列島が日米安保条約の対象になることを確認している。


白人至上主義からダイバーシティ促進へ


白人至上主義は日本人にはピンと来ないだろうが、トランプ元大統領が大統領職を離れた後も白人労働者の間で根強い人気を誇る大きな理由である。


アメリカは元々、イギリスを始めとするヨーロッパの白人たちがつくった国である。ところが、近年、黒人に加えて、アジア系移民、ヒスパニックと言われる中南米からの移民がどんどん増えて、白人がマジョリティ(=多数派)からマイノリティ(=少数派)に追いやられようとしている。


こうした傾向に不満を持つ白人労働者たちに、彼らにしか理解できないdog-whistle(犬笛)と言われる表現で、自分は彼らの不満を理解していると語りかけたのがトランプである。結果的に、白人対有色人種という深刻な分断を招いてしまった。


バイデン大統領の就任演説には「結束」という言葉が8回も使われているが、これは民主党支持者と共和党支持者の対立だけでなく、人種間の対立も乗り越えようという意味である。カマラ・ハリス副大統領やオースチン国防大臣が黒人であるのも、また、多くの閣僚に女性が起用されているのも、白人至上主義を払拭してダイバーシティを促進しようというバイデン政権の強い意気込みが現れている。


パリ協定離脱からパリ協定復帰へ


パリ協定とは、2015年12月にパリで開催されたCOP21で採択された2020年以降の温室効果ガス排出削減のための国際枠組みである。要するに、地球温暖化を防ぐための国際的な約束である。


トランプ元大統領は地球温暖化による気候変動そのものを「フェイクニュース」(デタラメな嘘)と断じて、パリ協定から離脱してしまった。その背景には、自身の支持基盤である石炭業界や石油業界への配慮があると思われる。


これに対して、バイデン大統領は初日にパリ協定に復帰する大統領令に署名した。これは国際協調主義への復帰を示すとともに、オバマ政権で始めたグリーン革命を本格的に再開するという意思表示でもある。


もう一つの意味は、科学を尊重する姿勢への復帰である。アメリカが新型コロナの感染者数と死者数が最大であることから分かるように、トランプ政権の新型コロナ対策は科学者の意見よりも「コロナは魔法のように消える」という希望的思い込みを優先させたデタラメであった。


これに対して、バイデン政権は、国民の信頼の厚いファウチ博士を筆頭とする感染症の専門家チームを中心として新型コロナ対策を進めている。ここに来て、ようやく新型lコロナが終息する道筋が見えてきた。


トランプ政権から引き継ぐもの


以上、トランプ政権から変わるものを見てきたが、トランプ政権にまったく功績がなかったわけではない。それは、①対中強硬姿勢、②保護主義、③ラストベルトの救済、の3つであり、バイデン政権もこれを引き継ぐことになる。


対中強硬姿勢は変わらない


バイデン政権は中国に強く出れないのではないかと危惧する声があるが、それは当たらない。なぜなら、中国がアメリカの脅威、さらに言えば、敵であるという認識は、すでに、民主党、共和党の党派を超えたワシントン・コンセンサスになっているからである。


中国に対する認識を改めたのはトランプ政権の功績である。それまでアメリカは中国を世界に取り込めば、いずれ、民主化するというエンゲージメント戦略を採ってきたが、習近平下の中国は香港の民主政治を踏みにじり、ウイグル族を抑圧するなど独裁体制を強化している。


パリ協定に基づいた地球温暖化対策では中国と協力する姿勢を見せても、香港やウイグルでの人権抑圧や南シナ海での覇権的行動を抑えるために、同盟国と協力して対中国包囲網を構築することになろう。


保護主義は変わらない


国際協調主義に復帰しても、貿易面における保護主義は変わらないだろう。なぜなら、トランプが鋭く抉り出したグローバル化の陰の側面はまさしくその通りだからだ。これまでの古草経済学の理論では、自由貿易は全ての国を豊かにするというものだった。


確かにそれぞれの国における富の総和は増えたのかも知れないが、グローバル化の波に乗れた人たちと取り残された人たちとの格差を生み出した。そして、グローバル化に取り残された人たちこそ低スキルの中産階級であり、トランプを大統領に押し上げた人たちなのである。


バイデン政権も彼らに配慮せざるを得ない。すでにバイデン大統領は政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン」法の運用を強化する大統領令に署名した。日本が強く希望しているTPPへの参加はしばらくお預けにならざるを得ないだろう。


ラストベルトの救済


ラストベルトというのは、オハイオ州やペンシルバニア州などグローバル化で国内産業が空洞化した工業地帯のことだ。2016年の大統領選挙では、伝統的に民主党の支持基盤だったラストベルトで勝ったことがトランプ大統領の誕生に繋がった。


2022年の大統領選挙では、逆にバイデンがラストベルトを取り戻したことでホワイトハウスを取り戻すことができた。要するに、大統領選挙の要なのである。と同時に、グローバル化の陰を象徴する存在でもある。


したがって、ラストベルトに象徴される低スキルの白人労働者にいかに雇用を提供し、所得水準を上げるかが今後、アメリカの最大の課題となる。そのためには、行き過ぎたグローバル化を修正するとともに、大規模な公共事業に取り組むことになる。


幸い、そのための材料はある。全国規模で老朽化が著しいインフラを刷新するためのインフラ投資であり、また、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を図るグリーン革命である。ラストベルトをどれだけ救済できたかで、2022年の中間選挙の結果が決まると考えて良いだろう。

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